第32講●「無駄」の効用

今日は「無駄」の効用についてお話したいと思います。

いろんなところで「無駄を省きましょう!」
という言葉をよく聞きます。

会社でも学校でも、家庭でも聞きますね。

「無駄」を省くことで物事を効率化するという視点は、
確かに大切なことです。
ですが、実は「無駄」がなければ困ることもあります。


今回は「無駄」の効用について、
ライティングの視点から探ってみました。


●「無駄」を「周辺知識」と言い換える

何かを学ぶ際の話にたとえてみます。

たとえば民法を学ぶとき、具体的な事例を思い浮かべると、
無味乾燥に思える条文もすんなりと頭に入ってきます。

法律の勉強だけでなく、何を学ぶ時でも同じかもしれません。
先生の雑談があったからすんなりと覚えられたという経験、
あなたも学生時代にしていませんか?

これは「無駄」なものではなく、「周辺知識」として
あったほうが良いもの、あるいはもう一歩進んで
「必要なもの」と言えるように思います。


相手に伝わりやすい文章を書くためには、
「徹底的に無駄を省く」ことが、かえって害になる場合があります。

たとえば、待ち合わせ時間や場所を伝える際、

「10月8日(月)12時半、高田馬場ビッグボックス前」

だけでも伝わりますが、あまりに無味乾燥で、
忘れてしまいます。

この際、「周辺知識」としての何かを入れると、
しっかりと相手に伝えることができます。

「体育の日の10月8日(月・祝日)、
昼少し過ぎの12時半に、
高田馬場駅前のビッグボックスの前でお待ちしています。
向かって右手に交番があるので、その前あたりで。
ちなみにビッグボックスは今改装中です。」


相手の時間を必要以上に奪う「無駄話」は避けるべきですが、
手がかりとなるような周辺知識は、
決して「無駄」ではありません。

「無駄を省く」ことばかりに意識が行っていると、
相手に役立つ「周辺知識」を落としてしまうことがあります。

何が「無駄」で何が「周辺知識」なのかは
書き手の考え方によるとも思いますが、
あなたが何かを伝えたいと思う相手の立場に立って考えれば、
必然的に何が必要なのか見えてくることと思います。


●「無駄」を「遊び」と言い換える

数年前に初めてスーツをセミオーダーで作ったのですが、
そのスーツ、今はクローゼットにかかったままです。

なぜって、ウエストが増えてしまったから...。
ただ、それほど大幅に増えたわけではないのです。
せめてほんの少しの「遊び」があれば、今も着られたはずです。


車のハンドルにも、「遊び」がないと危険ですよね。
他のさまざまな機械や道具なども同様です。
「遊び」があるからこそ、操作性や安全性が高まります。

「遊び」はけっして「無駄」なものではありません。


文章も同様です。
言い回しの「揺れ」、多少の「無駄」があるほうが、
すんなりと頭・心に入って来やすいのです。


「いい文章を書こう」として
あまりに無駄をそぎ落とし過ぎると、
無味乾燥なつまらない文章になってしまいます。


人間はファジーなものなので、
多少の「遊び」「無駄」があったほうがいいのです。


人生も、同じかもしれません。

  





 


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Profile

高橋恵治(たかはし・けいじ)
70年、長野県生まれ。早稲田大学卒業。広告コピーからゴーストライティングまでこなす異色の元雑誌記者・編集者。09年、マスコミ勤務15年の歴史に終止符を打ち、書き手に転身。紙・Webなど媒体を問わず、反応のとれる文章に精通する文章のプロ。

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